大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 昭和34年(わ)488号 判決 1960年2月11日

被告人 松本利夫

昭一〇・一・二生 自動車運転者

主文

被告人を禁錮四月に処する。

但し本裁判確定の日より二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、山口市役所に臨時雇として採用され、貨物自動車の運転業務に従事する者である。昭和三四年六月六日、道路舖装用砂利を、舖装工事現場である同市東山通りに運搬すべく、同市役所所有の山四た〇一九一号小型四輪ダンプ型貨物自動車にこれを積載し、運転補助者なくして同車を運転し、巾員三、五米乃至三、八米位に過ぎぬ小路である同市相良小路を南進し、同日午前一一時半頃、右現場の手前、江崎製材所附近の三叉路にさしかかつた。荷下しには、現場に車体後尾を着けるのが便利な関係から、右三叉路において、東進して右製材所正門に通ずる巾員三米乃至五米位の道路に一旦左折して入り、ついで後進を始め、進行方向むかつて左折して右相良小路に出、そのまま後向にてこれを南進しようとした。かように運転補助者なく狭い三叉路において車体転換をし、つづいて後進をしようとすると、自動車を右折もしくは左折させ、停止させ、後進させ、後進のまま右折もしくは左折することとなり、附近通行人は自動車の動きを十分に予測することができず、衝突の危険を持つということができ、又後進の際には、運転者自から車体の一方を警戒しても、その反対側及びその後方には当然死角を生じ、同様通行人と衝突の危険を持つということができる。そこで運転補助者なくして右の如き処置をなそうとする運転者は、その行為に出る前一旦下車して三叉路附近通行人の存否を確かめ、通行人ある場合は、これに対し、一旦進入し後進を開始する箇所、後進する方向等を具体的に指示して避譲せしめ、又附近に成年者もしくは成年者に近い者がいて、たやすく協力を求め得る事情にある場合には、少くとも車体転換が終る前後の間だけでも、右の如き処置をとることを伝え、幼児等が突然後進方向に現れないよう見張方の協力を依頼し、見張人が得られない時は、後進開始後数米毎に一旦停車し、運転しながら警戒した反対側に通行人が現れないかを確かめ、且つ極力徐行し、後進しながらも随時警笛を吹鳴させて通行人を警戒させる等のことをし、事故を未然に防止する業務上の注意義務があるということができる。然るに被告人は、右三叉路附近にさしかかつた際、運転席からは、三叉路手前左角道端に被告人の車を避譲して立つていた山根尚子(当一九年)の外、相良小路前方道路上に通行人を認めなかつたので、漫然、幼児等が突然進行方向に現れることはないものと軽信し、事前に下車して三叉路附近通行人の存否を十分確かめ、通行人に車体転換の上後進するので避譲するよう指示せず、前記の地点に立つていた右山根尚子を認めながら、格別協力の依頼を妨げる事情なくしてこれに後方の警戒を依頼しないまま、車体転換のため一旦右三叉路で左折して江崎製材所正門に通ずる道に入り、車体後尾が相良小路より一・八米位離れる地点に停車し、ついで運転席後側窓より後方を見たのみで、後進を開始し運転席右窓より顔を出し、進行方向むかつて左側及び左側後方のみを警戒し、数米進行毎に停車して死角に当る進行方向むかつて右側を警戒することもせず、且つ警笛も吹鳴せずして後進をつづけ、進行方向むかつて左折して相良小路に出、そのまま南進した過失により、後進開始後一〇米余り進んだ山口市東惣太夫第四四八番地大谷喜代槌宅前附近において、同車の、進行方向むかつて右側相良小路道路上を、折から同車と相前後し、同一方向に向け歩行中の岡本典子(当三年四月)に気付かず、同車左側前輪(進行方向むかつて右側後輪)にて同女に接触、その臀部肩胛部頭部を轢過し、よつて同女をして頭部左半部挫滅により、同所において即死せしめたものである。

(証拠の標目)(略)

(適条)

刑法第二一一条前段(禁錮刑選択)第二五条

刑事訴訟法第一八一条第一項本文

(裁判官 竹村寿)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例